■殺人事件に至った背景とは
加害者は控訴審の精神鑑定でパラノイア(日本語では妄想病と訳される精神障害)と診断されている。事件当時の言動からも偏執的な一面がうかがえることから、被害者意識が非常に強かったと思われる。
ベランダのサッシ戸・玄関ドアの開閉音や、トイレ・風呂場の扉の開閉音といった物音を気にしだし、「金槌の音があまりにもひどい」と感じた際には、一度自宅から階下の被害者方へ「うるさい」などと怒鳴ったことがあった。「引っ越しの挨拶にも来なかった」という相手への「こうあるべき。」という感情も要因の一つであったとされる。
さらに加害者は当時失業しており、かつ妻も家を出て行った直後という状況であった。逮捕後の供述では「八方塞がりで、死んでしまおうかなと思った」と述べており、ここから想像されるのは、やはり心理状況の与える大きさである。ストレスを抱えた状況で孤立し、通常以上に音に神経質になっていたり、他者に攻撃的になっていた可能性がある。
犯行に加害者が使用した凶器は刺身包丁・さらし・ペンチなど。それらを買い物用袋にまとめて入れ、殺害の準備を行った。刺身包丁は別の犯行に使うつもりで購入したもので、さらしは包丁で殺害しきれなかった場合の絞殺用に、ペンチは電話線を切断して警察への通報を妨害するために用意していたなど、計画的な犯行であったことから異常と言えるほどの憎しみと殺害意欲がうかがえる。
また過去にも別の場所で近隣トラブルを起こしていることがわかっている。1959年から1963年まで東京都八王子市並木町のアパートに住んでいたが、ここでも隣人と音のトラブルになっていたという。
■推測
本事件以前にもトラブルを起こしている過去があることから、音の感じ方の違い、周囲の音を敏感に拾ってしまう障害特性、および性格であったことも要因の一つと考えられる。
音の大きさが原因なのか、聞いている側にも原因はあるのか、何がトラブルの原因になっているのか突き詰め、対処を行わなければ転居しても再度トラブルへと発展する可能性がある。
本事件では、おそらく事件後の控訴審の精神鑑定により、加害者が精神病質者であることが分かっているため、事件以前の早い段階で、病院等での適切な治療を受けていたらその後も変わっていたのかもしれないと考える。
■まとめ
今回取り上げた事件では加害者に「挨拶がなかった」「スミマセンの一言くらい」という発言がありましたが、相手がどんな人なのかわからない不信感・不快感からもトラブルは始まっていきます。
そして相手がわからないということは、トラブルが悪化するタイミングがわからない、ということでもあります。この事件も、加害者の性格や精神状態が分かっていたら事前に打てる手もあったのかもしれません。
早期の段階でトラブルを察知し、原因は何なのか、第三者が判断し適切な対処を行うことで防げた可能性もある事件は多くあるはずです。